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「シネマの天使」公開記念 映画館の思い出エッセイ募集 結果 シネマの天使

映画館への愛が詰まった本作品の公開を記念した「映画館の思い出」エッセイ募集、入賞作品一挙掲載!有効応募総数123通。たくさんのご応募ありがとうございました!

【お詫びと訂正】
優秀賞のお二人のお名前とカッコ内に誤りがありました。ここに訂正し、関係者の皆様に深くお詫びいたします。

正)
優秀賞2作品
山下のり子(福井県 66歳)
小林広美(山梨県 56歳)

最優秀賞1作品

タイトル:香りと映画と父親と

氏名:山下輝久(大阪府 37歳)

 香りは記憶を呼び覚まし、走馬灯のように、短くはあるが、愛にあふれた父との時間に私を連れ戻してくれたのである。
 数えきれないほどの人をそれぞれのストーリーに誘ったであろうその深紅のフカフカ感たっぷりのシート。だけれどもクッションのシートのバネはきしむ音を出していた。何故だかわからないのだが、そのシートの凸凹した座面に指を滑らせて感触を確かめる…それは私にとって唯一の「父に守られている感じ」のする場所だったのかもしれない。
 去年の夏、足を運んだすこしさびれた映画館の劇場に入った途端に私はフラッシュバックした感覚になった。錆びた鉄の匂い。たくさんの思い出を見つめてきたであろう劇場の長いカーテンの匂い…  父は公務員で、その仕事は大変であったであろうことは当時の子供の私でも想像がついていた。深夜の呼び出し、長期の出張など、常に多忙を極めていた。しかし、そんな中でもいつも父は私との時間を大切にしてくれていた。一緒にどこかに行ったとしても、いつも途中で、「すこし電話してくる。お前はここで遊んどけ。すぐに戻ってくるから。」というのが常であり、私もなんの抵抗もなかった。
 夏の暑い日、久々の休暇をとれた父は私を連れて、今はもう無いとある映画館に連れて行ってくれた。一緒に劇場に入り、ポップコーンとジュースを買い、真っ暗な部屋に入る。犬が探偵役の映画はストーリーを進めていく。とあるシーンで、実際には見たことのないような野菜やハムとたっぷりのチーズを挟んだサンドイッチをその犬がほおばるシーンがあった。その美味しそうなことと言ったら、いまだに脳裏に焼き付いている。
 すると、いつもの様に父が「お前はここでじっとしてろよ」というセリフと共に劇場から出て行った。しかし、いつもみたいに電話を終えて帰ってくる様子はなく、少し不安に駆られた私は、安心感を求めたのだろうか、そのシートの凸凹に指を滑らせ、ソワソワしていた。映画のエンドロール部で、こそこそと父は身を屈め、帰ってきた。
 今、思うと、それは日本史にも残るような事故が発生した日だった。その対応に父は追われていたのである。
 何かを携えてきた父はにっこりと笑い、「ごめんな遅くなって。映画面白かったか?よくじっとしてたな。」といい、私の太ももにそれを置いた。それは、当時有名だった某店のサンドイッチのお持ち帰りの箱だった。
 「なぁ、輝(私の名)。ここから歩いて帰ろうか」「うん」一緒にそれをほおばり、5キロの家路を歩いた。そのせいだろうか。私は今も、映画を観終わえた後、夜風に吹かれながら帰るのである。そして映画館は未だに私にとっては、そんな全てを包み込んでくれる大きな母のような存在の愛なのである。(1112字)

【講評】
書かれていない不在のものへの想像力を喚起し、五感に接触してくる部分が、他になく、映画館という場所の得体の知れなさに改めて思いを至らせた。(『キネマ旬報』編集長・明智惠子)

優秀賞2作品

タイトル:結婚の決め手

氏名:山下のり子(福井県 66歳)

 お見合いをした人とそれなりの交際を続け、3か月が経ち、結婚するかどうか返事を出さなければならないときが迫っていた。真面目な方だし、職業も安定しているし、断る理由はないのだが、なんとなく乗り気になれない。母に相談すると、「あんたにはもったいないくらいのお方だよ。」と必ず言うので、一度、職場の女性上司に相談をした。すると、意外な答えが返ってきた。「一緒に映画を見ると良いよ。そのときに悲劇じゃなくて、喜劇を選ぶのが大事。人間は、悲しみのポイントは大抵一緒だけど、笑いのポイントはそれぞれ違うんだって。だから、その人が笑う場面で自分も一緒に笑えたら、同じ価値観で人生を一緒に過ごせるってことになるよね。」
私は妙に納得し、即実行した。映画は、その当時流行っていたコメディーと人情を併せ持った寅さんシリーズの「男はつらいよ」に決めた。「見たい映画があるの。」と自ら誘って、初めての映画館デートをした。ただ、私が気になるのは、その人がどういう場面で笑うのか。正直なところ、スクリーンに集中ができず、その人の横顔をちらちらと隙あらば見ることに集中していた。私としては、その人の笑いのツボが自分と同じなのかを知りたかったのだが、映画の間中ずっと、その人はにこにこしている。残念なところ、いまいちよく分からないという結果になってしまったのだ。
映画を終え、私は少々不満だった。今思うとくだらないが、そのとき私は真剣に、この結果で結婚するかどうかを決めようと考えていたのだ。期待していた結論が得られなかった私は、もう単刀直入に聞いた。「どこが一番面白かった?どこで一番笑えた?」すると、この人はこう言う。「全部。最初から最後まで全部。のり子さんが初めて誘ってくれた映画だから、すごく嬉しくて全部面白かったよ。」
帰り道、その人が急に「ちょっと待って」と言い、お餅屋さんに入ると、何やらいっぱい手に持っている。「映画、全部面白かったけど、あえて言うなら、寅さんが草団子食べるシーンが一番かな。すごく美味しそうだったよね。これ、お土産にどうぞ。」と言って、私の家族分(8人分)以上の草団子を買ってくれたのだった。
あれからずっと、その人と一緒に私は人生を歩んできた。娘は結婚し、孫もずいぶん大きくなった。結局のところ結婚の決め手は、草団子。食い意地が張っているように見えるが、実は私もあの映画で一番印象に残っているのは、寅さんが美味しそうに草団子を食べるシーンだった。主人と結婚できたのは、あの映画館、そして「男はつらいよ」の寅さんのおかげだ。これからも主人と仲良く人生をゆっくり歩んでいきたい。
先日、主人と一緒に映画館で「東京家族」を見た。久々の映画館デートに年甲斐もなくわくわくした。上映後、「ジーンとしたね。」と言うと、「うな重うまそうだったな。」と返ってきて、私は思わず、ぷっと笑ってしまった。(1187字)

【講評】
読んでいて思わずこちらまで微笑んでしまうほど、かわいらしくて幸せなお話。
ありがとうございました。(女優・及川奈央)

タイトル:一人ぼっちの映画館

氏名:小林広美(山梨県 56歳)

 昭和51年、高2の春休み。石川県から兄の下宿先を訪ねた翌朝のこと。
「お前、夕方まで、映画観て来いや」
「一人で?」
「今日、俺は大学に行かんとならんから。お前1人で部屋におるより、映画は楽しいぞ」
朝食を済ませ、兄と一緒に静岡駅近くの映画館がある通りに行った。それまで映画館で映画を観たことは一度もなかったので、映画館には興味はあった。映画館の前には、看板やポスターがたくさんあった。兄は「ロミオとジュリエット」の看板を見ると、
「これでいいな」
私の同意も得ずに、その映画館に入った。そして、窓口でチケットを1枚買い、昨夜、静岡駅で買ったフランスパンを手渡し、
「あのドアから入れ。三つ映画観たら、また最初から始まるからな。5時に、ここに迎えに来るから」
そう言って、行ってしまった。1人残された私は、周りをキョロキョロした。売店があったので、キャラメルを買った。
 「ロミオとジュリエット」は、新作ではなくリバイバルだったので、私も題名くらいは知っていた。でもその時は、映画の期待感より、心細さの方が強かった。時計を見ると、約束の時間まで7時間もある。とにかく入ってみるかと思い、恐る恐る入口のドアを押した。思ったより重いドアだった。入ったはいいが、奥へ進めず隅っこに暫く立っていた。そのうち、暗やみに目が慣れ、辺りを見回すと、席は殆ど空いていた。何だかホッとして、1番後ろの席に座ると、前の椅子の背もたれで映画が見えないくらい椅子が沈んだ。見たこともない大きなスクリーンでは、車が派手なカーチェイスを繰り広げていた。
「ロミオとジュリエットじゃない?」
そう思ったのも束の間、車が猛スピードで走り、いきなり止まり、格好いい男の人がアップになった。その俳優はマイケル・サラザンで「激走5000キロ」という映画だった。私は一目でファンになった。一つ目の映画が終わっても館内は明るくならず、すぐに「ロミオとジュリエット」が始まった。画面いっぱいのオリビアハッセーは、人形のように美しかった。三つ目の映画は、殆ど覚えていない。アッと言う間に、午後3時になっていた。すると、また「激走5000キロ」が始まった。入れ替えもなくエンドレスに映画が続くことに驚いた。
2回目の「ロミオとジュリエット」は観ずに、足をふらふらさせながら外へ出た。その時の光の眩しさと、頭の中が映画の楽しさで満タンだったことを今もよく覚えている。椅子に座り、キャラメルを1粒口に入れたら、兄が心配そうな顔でやって来た。
あれから40年。兄と当時のことを話すが、何故一人で映画館へやったかを覚えていないと笑う。あの映画館には、スクリーンで観るド迫力、やけに深く沈む椅子、重いドア、心配顔の兄…、たくさんの思い出がある。(1115字)

【講評】
一人で映画を観ることになった女子高生が、映画館の中で予期せず出会った男臭い冒険と美しいロマンスに翻弄される様子が楽しい。めまぐるしく3本の映画を一気に見た彼女は映画で頭が満タンなってしまい、ぼーっと高揚した彼女の様子が見に浮かびます。その喜びが今も彼女に残っている。あの頃の映画館の強さが感じられます。(映画監督・時川英之)

佳作10作品

タイトル:映画館のソフトクリームが硬かった思い出

氏名:大屋尚浩(神奈川県 51歳)

タイトル:一人旅

氏名:坂井和代(石川県 51歳)

タイトル:五十五年前の思い出

氏名:柿本茂昭(大阪府 65歳)

タイトル:駅前の小さな映画館

氏名:谷関幸子(東京都 60歳)

タイトル:さよならサヨナラ、私の名画館

氏名:山本由美子(大阪府 64歳)

タイトル:遠くの街で、

氏名:十河和也(東京都 20歳)

タイトル:映画館

氏名:後藤智子(栃木県 46歳)

タイトル:映画研究会の文化祭

氏名:坂内香穂子(東京都 55歳)

タイトル:閉館する映画館へ 自分の人生と思い

氏名:井上幹夫(広島県 41歳)

タイトル:あの日の奈良で

氏名:壇杏美(奈良県 22歳)